sarah_m’s blog

女の子が生きやすくなるためのtipsを綴ります。

幸せそうに電車に乗っただけで殺されない社会に

※2021年8月7日にsubstackに公開した記事の転載です。

「幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」

7月6日に東京都世田谷区の小田急線車内で複数の乗客を刃物で切り付けた事件で、逮捕された犯人のことばです。この事件で、都内に住む20代の大学生の女性が、背中や胸など7ヶ所を切られ、重傷です。
自分よりひとまわりほど若い女の子がこんな目に遭うなんて、おばちゃんは涙が出そうです。この女性はアクション映画のように、拳銃やナイフや馬や本を持ちだしてドンパチやりあっていたのではなく、電車に乗っていただけです。一方的な犯行です。

ことばが示す通り、犯人は無差別に人を切りつけたのではなく、女性を選んで、狙っています。これは「無差別」の事件ではなく「女性差別」の事件です。このように、「女性(少女を含む)が女性であるがゆえに、男性によって殺されること」をfemiside(フェミサイド)と呼びます

一度、逆のパターンを考えてみましょう。
「幸せそうな男性を見ると殺してやりたいと思うようになった」のような動機で、女性が男性を殺した事件を私は、思い出せません。一方で、今回のように女性を標的とした犯罪は、殺人に限らず、ニュースで毎日のように見かけます。当たり前のことのように、見過ごしてしまいそうなほど日常茶飯事です。

もしかして、日本はフェミサイドが多い国なのでしょうか?
私の取り柄はひまであることです。ひまを利用し、ほかの国と比較してみました。

 

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日本は、殺人の被害者における女性比率が高い

いきなり結論を書きますが、国連薬物犯罪事務所が2014年に発表した報告書によると、日本は殺人事件の被害者のうち52.9%が女性で、女性比率が世界トップとのこと。同率トップが香港。次いで、お隣の国・韓国が52.5%。

ちょっと古い調査やな、もしかしたら女性比率が高い年なんとちゃいますか?と、念のため比率を示してくれるサイトを見てみたところ、最新のデータは2019年で、56.7%でした。高なっとるがな!

どの犯罪も、加害者・被害者ともに男性の比率が高いと認識していたため、びっくりしました。ちなみに世界の殺人事件の加害者の約9割、被害者の約8割は男性です。

比較として、他国の数値も並べると、アメリカが22.2%、イギリスは29.7%、中国は21.9%。女性を標的とした陰惨なレイプや名誉殺人が多いイメージのあるインドでも40.8%とのこと。世界平均は21.3%になります。(※2014年のデータです)

また、これは「通り魔」的な犯行に限りません。配偶者や恋人などのパートナー、元配偶者、家族からの犯行が約半数を占めています。同事務所の2018年の調査によると、パートナーが34%、ほかの家族が24%、それ以外が42%です。女性は、今回のような「無差別」とされながら実際には女性や子どもを狙うことが多い通り魔的な犯行だけではなく、配偶者、元配偶者、家族からも殺されていることになっています。とっても雑な数え方をすると、6割が家で殺されて、4割が家の外で殺されていることに。国連は調査結果とともに、「皮肉なことだが、女性はケアや保護を期待したい相手から殺されるリスクにさらされている」とコメント。
もちろんすべてが「フェミサイド」とは言い切れません。加害者側も女性であったり、性別に関係なく、恨みを買って殺されていた事件もあるはず(殺されていい理由なんて、何ひとつつないのですが)。
ただ、日本は女性が殺人事件の被害者になる割合が、他国よりかなり多いというのが事実です。めでたくない金メダルです。

声をあげ、ラベルをつけて、件数を数値化して、顕在化して、対策を

何もしていないと、女性であることを理由に危険な目に遭うリスクは下がりません。
厳罰化などの対策を講じるには、社会全体として「これフェミサイドやで!」「またフェミサイドが起きたで!」「フェミサイドはあかんから対策をするで!」と、声をあげ、顕在化させることが大切です。

 スペインでは2003年から「フェミサイド」の発生件数を記録しているそうです。同国では、女性への性暴力事件を専門とした、特別裁判所が設置されています。また、強姦を取り締まる法律も厳しくなりました。

フランスでは2019年に、「フェミサイド」対策に500万ユーロ(約5億8200万円)を投じて対策すると発表しています。

イギリスでは、2021年に女性がロンドン警視庁の現職警官に殺された事件が社会問題なりました。女性は、友人宅から帰宅するために夜道を歩いていたところを襲われています。印象的だったのは、事件を受けて、女性に自衛を求めることに疑問を呈した世論でした。
ジャーナリストのクリス・ヘミングスさんは、「犯人は自分たちだ。自分たちにとってどれだけ不都合でも、これは男の問題だ」と指摘。事件現場の近くに住む一般男性であるスチュワート・エドワーズさんは、「夜道で女性を不安にさせないために、男性にできることを考えたい」という旨のツイートをし、大きな反響を得ました。さらに、ジェニー・ジョーンズ・ムールスクム女男爵は「100%本気だったわけではない」としつつ「男性に対して午後6時以降の外出を禁止してはどうか」と、女性に自衛を求める声に反論しました。
議論が一歩進んでいるなという印象を受けました。

一方で、カウンターとして、「#NotAllMen(男全員というわけじゃない)」というハッシュタグも登場しました。いや、そんなんわかってんねん。私も一部の男性によって、大半の無実の男性が割を食うのはどうかと思います(現状、何も制限されておらず、何も割を食ってないけど)。
ただ、「だから声をあげるな」というのは、どうかしています。いっしょになって、悪いことをやっている奴を懲らしめたり、困っている人を救済しましょうよ。

そのためには、まず、女性と男性を含めた社会全体が「フェミサイド」を問題視しし、決してあってはならないと声をあげることが大切です。あなたや、あなたの娘、姉妹、母、友だち、同僚が、女性だからと殺される社会を変えましょう。

韓国では、2016年5月にソウルの繁華街で20代の女性が面識のない男性に殺害された「江南駅殺人事件」を機に、女性が声をあげ、ムーブメントが起きました。

私たちも、まずは今回の事件がフェミサイドであると、社会が共通認識を持つことから始めませんか?